
無宗教葬を考える
特定の宗教に捉われない葬儀のスタイルとして、「無宗教葬」はにわかに定着しているかと思われます。仏式でもなく神式でもなくキリスト式でもなく、という方の受け皿として「無宗教葬」は機能しています。
ところで、本当に「無宗教」なんていう状態があるのでしょうか?
葬儀の役割は以下の5つだと言われています。(碑文谷創著『葬儀概論』より)
①社会的な処理(社会的役割)
社会的にその人の死を告知すること。戸籍からの抹消、相続手続き
②遺体の処理(物質的役割)
土葬や火葬
③霊の処理(文化・宗教的役割)
死者の霊をこの世からあの世へ送り出す宗教的儀礼
④悲嘆の処理(心理的役割)
死別に伴う悲嘆の慰撫。追善供養、グリーフケア
⑤さまざまな感情の処理(社会心理的役割)
共同体に与える畏怖の和らげ
宗教が直接的な役割を果たすと思われるのは③です。死後の世界やそれらを司る神仏がいて、死者の霊をそれらのもとに送り出す儀式として宗教があるならば、宗教者を呼ばない葬儀は無宗教葬と呼べるでしょう。
ところが実際には葬儀の果たす役割の①から⑤のすべてが宗教的な要素をはらんでいるわけです。葬儀そのものがすでに宗教的な行為である上に、無宗教葬っていったい何なのでしょうか?
世間一般で言われている無宗教葬とは、宗教者を呼ばない葬儀、という意味です。
しかし、死者の遺体は処理されなければならず、死者と遺族の別れの場には何らかの形式が必要となります。ですからそんな葬儀をリードする葬儀社の担当者は、実は宗教的な役割を担うことになってしまいます。
どんな葬儀でもそうですが、無宗教葬ではことさらに担当者の出来が葬儀の納得感につながります。
宗教者はこの世とあの世と、生者と死者を繋ぐ役割を果たしますが、あの世の存在を信じられない人にとっては、自分たちの手で大切なあの人の葬儀を形作るという意味で無宗教葬は有益かもしれません。故人の大好きだった音楽、思い出のスライドショー、もちろん素晴らしいことだと思います。
しかし、目に見えない霊魂の処理には、なんらかの形式が必要となります。宗教儀式は何百年何千年という歳月の中で先人たちが積み重ねてきた人類の叡智であるとも言えます。
人間の心や魂は思いのほか繊細にできています。そして私たちが思うほどに死者やグリーフ(死別の悲嘆)の処理は難しいものです。今一度、宗教の果たす役割の大きさを考えた上で、無宗教葬を問い直してみませんか?
無宗教葬の様々なスタイル

究極の無宗教葬は、直葬です。火葬してお骨にするだけ。しかし無宗教葬を希望するということは、無宗教であれ儀式を執り行いたいということです。人間は大きな転換点において、儀式を必要とする生き物なのかもしれません。
無宗教葬の定義は「宗教者を呼ばない」ということです。ですから、無宗教葬に決まりごとはありません。自分たちの手で、故人を送りだす。これが無宗教葬の最大の良さでしょう。
しかしまた、決まり事がないことが遺族を戸惑わせることもあります。
「こだわりのある葬儀をしたい!」というポジティブな理由から無宗教葬を選ばれるのであれば、施主はさまざまな葬儀プランを葬儀社に希望していけばよいでしょう。ところが、「お坊さんはいらない」などのネガティブな理由から無宗教葬を選ばれるのであれば、「じゃあ、代わりに何するの?」という問題に直面します。
結局は従来の葬儀の形式を変形させたもの、というあたりに落ち着きます。僧侶の読経は家族や友人の故人への弔辞になり、焼香は献花・献灯、などでしょうか。
【一般的な無宗教葬はこのような流れになります。】
1.親族・参列者着席
2.開式の辞
3.黙祷
4.故人の略歴紹介
5.弔辞あるいは故人へのお手紙
6.弔電の奉読
7.生前故人の好んだ歌曲(生演奏やビデオなども)
8.施主・親族・参列者の順に献花
9.喪主・親族代表の挨拶
10.閉式の辞
無宗教葬では葬儀を司る宗教者がいない分、葬儀スタッフの能力がとても重要になってきます。空間演出のプランニングや司会などの進行上の演出など、こだわりのある方は綿密な打ち合わせをしましょう。
さて、無宗教葬で多いのは、音楽の静聴。あるいは音楽の生演奏。忌野清志郎さんの葬儀は「ロック葬」でした。素晴らしい無宗教葬だと思います。筆者も故人が大学時代に吹奏楽団に所属していたということで、同窓生たちによる生演奏をプランニングした経験があります。

プロジェクターやモニターを持ち込んで故人を偲ぶ映像を流すというのもあります。個人的には「お笑い葬」なんてものがあってもいいと思います。余興で死別の悲しみを笑い飛ばしてしまう。そんなことができたらさぞ素晴らしいかなと思います。
故人のため、そして残された家族のため、形骸化した葬儀ではなく、温かい気持ちになれる葬儀を望む方は、ぼんやりとでいいので早めにイメージしておいてもよいかもしれません。
お別れ会や偲ぶ会とは何が違う?
お別れ会や偲ぶ会、というものをみなさんはご存知でしょうか?
宗教を排した葬儀という意味では、お別れ会や偲ぶ会も一種の無宗教葬と言えるかもしれません。著名人の葬儀や社葬などで広く行われる方法として、まず家族だけでの葬儀(密葬)を執り行い荼毘に付したあと、後日改めて一般向けの葬儀(本葬)を執り行う、二段階の葬儀というものがあります。
これは、訃報がより周りやすく、参列者がお参りしやすくするという施主側の配慮によりますが、この本葬を、パーティー形式のお別れ会とするところから始まったのではないかと思われます。
無宗教葬とお別れ会では何が違うのか、というならば、ホテルを利用するかどうか、によるでしょう。葬儀会館でのお別れ会ももちろん可能ですが、ホテルでの開催では葬儀にはないホテルマンのサービスや料理のクオリティが期待できるでしょう。
ただし、原則として遺体の安置や読経や焼香は禁止されているために、ホテルでの葬儀式の開催はできません。花祭壇に遺影を飾り、故人を偲ぶ写真パネルや映像の展示、献花、代表者の挨拶や弔辞、そして食事、といったものが主な内容でしょう。料理もブッフェやコースなどさまざまで、参加者の人数によっては立食形式の場合もあります。
それなりの予算も掛かりますが、形骸化した葬儀よりもゆっくりと故人について偲び語らえる場としての葬儀を選ばれる方も近年増加傾向にあります。